2016年8月30日
akira's view 入山映ブログ カルメン
ボローニャ歌劇場のカルメンに行ってきた。お目当てのカウフマンは胸腺の手術とやらでキャンセルは先のMETで(11.6.16「ドン・カルロ」)承知していたから驚かないが、今回のボローニャは、リチートラが不慮の交通事故で早逝した不幸は別にして、フローレス、ガザーレ、ショット、マリアネッリがいづれも健康上の理由(いわく、軟骨付近の充血と肥大、腎臓結石、発声障害、喉頭炎・扁桃炎でそれぞれ全員15日間の安静が必要とのこと)だという。先のMETの時のネトレプコやカレーヤ、カウフマンが震災後の原発事故への懸念を率直に来日中止の理由に挙げていたのに(前述のように、カウフマンは今回は胸腺手術ということになった)、全員が健康上の理由に化けた。今も尚制御されていない原発事故に対してわれわれがよほど鈍感なのか、日本の興行主催者がよほどなめられたのか。いづれにせよ、余り愉快な話ではない。
ドン・ホセはアルバレスが今回も代役を引き受けてくれた。これが素晴らしい出来。アルバレス万歳。一寸小太りのミカエラの代役コッラデッティもこれまた豊かな声量と美しい声で魅了した。タイトルロールのスルグラーゼは歌唱力・演技力ともに申し分なく、コケットリーに加えて、あの小柄な体のどこから出るのかという声量は十分観客を満足させた。エスカミーリョの代役ケテルセンは、まあそれなり、という出来だが特に不満というほどのものはない。
それより、ラトビアから持ってきたという舞台は、なんと1990年代のキューバという設定。緞帳がキューバ国旗、というのでいささか鼻白む心地だが、それに加えて、まさかボローニャが共産党政権だからでもあるまいが、カストロやチェ・ゲバラと思しき肖像画が飾られたり、ドン・ホセやスニーガはカーキ色の例のキューバ軍服姿。何とエスカミリオに至っては闘牛士ならぬボクサーと言う噴飯ものである。一体どんな必然性でこういうことになるのかは知らないが、衣装もトレパンや短パンが多用されてほとんど悪趣味としか言いようがないほか、どういう風の吹き回しか、第3幕のカルメンの衣装は星条旗。まさか悪と享楽の象徴という訳でもあるまいが、演出(というのかな)が馬鹿げた自己主張をするのはドイツ・バイエルンだけではない、と知ったことだった。
疑問のある演出は舞台をキューバにしたという馬鹿馬鹿しさ以外にもあちこちに散見された。その一例は、あのカード占いの場面で、めくってもめくっても「死」のカードが出る、というところを、何とカードに触れもしないで、あちこち歩き回りながら、「また死だ」と歌わせる。演技力抜群のスルグラーゼだけに、この見せ所の場面をひとりよがりの馬鹿な演出がぶちこわした観があった。合唱はいささか強声に偏りすぎるきらいはあったが、迫力十分。マリオッティという若い指揮者も、有名すぎるくらい有名なこの歌劇を真正面からけれん味なくまとめあげた。
2011年 09月 14日