2016年9月7日
現代文明と精神座談会(33) 出席者:尾崎一雄/荻野彰久/斎藤玉男/島崎敏樹/丸山薫
尾崎 谷崎さんなんか、四十八くらいの時から、「もう駄目です、先がない」なんて、しょっちゅう言っていましたが。心臓でひっくり返って・・・・。しかしもう七十越している。(笑)だからまったく臆病過ぎると思っているんですがね。
丸山 そういった恐怖観念、こういうのは近代文明が発達しない時もあったんですか。たとえば旅行する時に、汽車に乗らずに、せいぜい駕籠で行く、そういう時でもあったんでしょうか。
島崎 理由のない恐怖というのは、洞窟時代の人間からあったんじゃないかと思います。たとえば暗がりのこわさとか
尾崎 谷崎さんがそうなんですよ。夜電気を消すと寝られないんですよ。これにははっきりした理由があるんですよね。あの人はどこかで苦学した時、電気会社の夜勤になったんです。パッと消えると故障だから、なんとかしなくちゃいけない。それが癖になったんじゃないかと思うんだ。
島崎 それはおもしろい。
荻野 おもしろいですね。それは精神病学の教科書にありそうですね。
尾崎 だからこの年になっても消しては寝られない。職務にまじめな人ですからね。消えたらいくら寝ていても飛び起きて・・・・。