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2016年10月21日

akira's view 入山映ブログ 林雄二郎先生を偲ぶ(2)

 名論卓説もさることながら、林先生は優れた行動者・実践家であったという側面も大事だと思う。助成財団の専務理事として、先生はプログラム・オフィサーという職位を定着させ、日本における草分けともいうべき人々を教育された。余り知られていないことなので紹介しておきたいが、助成財団というのはある分野、あるテーマを選択した上で、その領域でプロジェクトを実行してゆきたい人々や組織に対して資金を提供するのが仕事だ。いわばお助けマン、金主になるのが仕事だという組織だ。ある目的を掲げた場合に、それを実現する数多くの手法のうちから何を選択するか、どのように実現するか、それを取捨選択し、判断するのにはしっかりした「めきき」が必要だ。

 博物館や図書館で学芸員とか司書といわれている人々と機能は同じで、こうした「その道のプロ」はプログラム・オフィサーと呼ばれることが多い。経営者・指導者の理念やプログラム・スタッフの質が財団の仕事の質を決定することは見易いだろう。この辺りが少しずれると、例えばドイツの高名な財閥が設立した欧州一の資金規模を誇る財団のように、「超一流の二級品を集める天才」と揶揄されるようなことになる。トヨタ財団で林先生が手塩にかけられたプログラム・オフィサー一期生たちは山岡義典氏に代表されるように、その後の日本市民社会において押しも押されもしない活動家に育っていったのは周知の通りである。とかく制服を着て社歌を歌わせたくなりがちな日本の企業財団にあって、断然それと一線を画した豊田英二氏の卓見と相まって、林雄二郎という伯楽を機能させたトヨタ財団のあり方は、一つのモデルとして、その開発した東南アジア関連の研究プログラムや「隣人を良く知ろう」プログラムと共に、今や伝説的な存在である。英二氏と林氏なき後のトヨタ財団は善かれ悪しかれ全く別の組織になったといっても良いだろう。

 企業財団のみならず、財団における文化継承に当たっては様々な困難に遭遇する。マネジメントについて言えば、オーナー若しくはそれに準じた存在がいて、それが最近プロ野球で話題になっているGM(General Manager)を選任する。言うまでもないことながらGMはオペレーションについては人選から予算執行に至るまで全権を持つ、というのが理念型だ。現実にはすべてをGMに委せっぱなしにするほどの太っ腹なオーナーはなかなかいないし、他方財団のGMというのは定年退職後の「無事事なかれ」の様な人が選ばれたりするのが多かったりするから、いろいろな変種が出現する。仮に理想的な組み合わせが成立したとして(豊田英二氏と林先生の組合わせはその希有の例)どちらかが代わったりすると、成立した文化が後代に継承されるのは極めて困難だ。それは一つにはこうした文化が個人的要素によって支えられている例が多いことにもよるが、また反面、後継者が有能であればあるほど(無能ならば尚のこと)前任者の痕跡を全否定したくなる、という人間の性にもよるところがある。英二氏という希有の経営者あればこそ「偉大な田舎者」トヨタがあんな洗練された財団を持つことが出来たのだが、彼が去ってみれば、凡百の企業財団になることも無理からぬことではあった。(この項続く。)

2012年 01月 27日



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