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2016年10月24日

akira's view 入山映ブログ 林雄二郎先生を偲ぶ(3)

 助成財団の文化継承が困難な理由の一つは、成果測定の客観的な基準が設けにくいという点にもある。有能な、あるいは無能な後継者が前任者の業績全否定から始めたとしても、そのパフォーマンスを測定して前任者と比較することさえ出来れば、そんな無理や無茶が通る訳はない。しかし、「めきき」の質がどれほどのものか、を測定する客観的なモノサシは、残念ながら存在しない。結果、さまざまな凡庸さが趣向を競う様なことになるケースが間々見られるのは周知の通りだ。これは本質的に民間非営利組織の答責性(accountability)という問題に連なるのだが、ここでは論点をそこまで拡大はしない。

 助成財団の真骨頂は、どんな問題意識を持っているかではなく、その問題意識をどう具体的なプログラムに投影するかの一点にかかる。世に問題だと言われるほどのものならば重要でない等ということは考えにくいのだから、取り組んでいる問題意識が大事だからといって、取り組みかたを正当化したことにならないのは自明である。核軍縮が重要だからといって、一民間財団がそれに取り組むことの合理性、あるいは必然性を保証しないのと同じように、日米関係が、人口問題が、あるいは世界各地域との対話が重要であるからといって、それが財団の取り組みを正当化する十分条件だと考えるのは単なる初歩的な過ちに過ぎない。林先生はこのあたりも慧眼に見抜いておられた。「十人のうち、九人が賛成する様なプログラムであれば、まず疑ってかかった方が良い」「知的怠惰ほど居心地の良い環境はない、と思うようになっていないか」「無失点主義は知的な自殺だ」ご自身がお役人の出身でありながら、(あるいはそれ故に一層、なのかもしれないが)無失点主義、減点主義を鋭く批判されていた先生の馨喙こそ、今の日本がもっとも必要としているものかもしれない。

 林先生はまた、わずかの差異に拘う講座制アカデミズムに批判的であったこともよく知られている。「学者はどうでもよいささやかな違いにこだわって大局を見失っている」とは先生の言葉であり、未来学会の創設というのは先生流のそうしたアカデミズムへのアンチテーゼの表現と解することもできよう。その意味では先生は精緻な理論構築よりは現実の社会機能を重視された。余談にわたるが、先生の高弟たちがいづれも優れた実践家(practitioner)ではあるが必ずしも優れた理論家ではない、というのも単なる偶然ではないのかもしれない。

 「偲ぶ会」の発起人のリストを拝見していると、改めて文化の継承というのは決して簡単ではないことに思い到る。些事にはこだわらない先生のことだから気にもされていないだろうが、いかにも異質の観のある名前が併存しているあたり、多元的価値観の共存をモットーにされていた先生は、死して尚機能されていると思わないでもない。安らかにお休み下さい。合掌。

2012年 01月 28日



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