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2016年10月25日

akira's view 入山映ブログ 丸山健二

 丸山健二氏の「卑小な人間の偉大なる精神」(2012.1.29日経朝刊32面)は久々に辛口の評論を読んだ気がした。氏の怒り(というより嘆きに限りなく近いが)は、質の低い芸術的営為に満足してしまう大衆と、その傾向を無批判に拡大再生産するメディアの双方に向けられている。

 「傑作や名作とうたわれた作品の数々」を「これしきの稚拙なレベルでは小説でもなければ文学でもないという、激しい憤りと、ほとんど生理的ともいえる拒否反応」でしか受け取ることが出来ない。さらに「無頼派とやらを気取る」「小説に気休めの安らぎを得て酔い痴れてきた読者たちが、それよりももっと安直な感動ごっこに浸れる世界は移っていった」と手厳しい。「この状況を指して、関係者は文学の衰退を大げさに叫び、活字離れと称して、世も末だと嘆いてみせる」が、実は「ようやく正常な状態に立ち戻っただけのこと」である、と言う。

 「あげくに売れるものだけが良書と言うことに定まりそんな陋劣な価値観が当たり前として罷り通るようになり、ために、眼が肥えている成熟した読者は去ったきり戻らなくなった」「単に読みやすい、わかりやすいという、ただそれだけの理由で、あまりに低レベルな作品に群がっていた読者」は「まったくの気まぐれに発生するブームに釣られてしか小説に手を出さなくな」る、というのが現状分析だ。

 しかし馬に触れれば馬を斬るこの作家にも肉体の衰えは実感されるところらしく、「命の本源が肉体に在るかぎりは」「肉体の一部に過ぎない精神のほうもガタがきてしまう」「当人自身は未だ発展の途上にあるつもりでいても、結局その絶頂期はとうのむかしに終了していて、以後、凋落の一途をたどっているという冷酷な事実に気づかないことだって決して珍しくはない」という。高齢者より集っての新党騒ぎはさしずめどういうことになるのだろうか。

 ことは文学に留まらないのはいうまでもない。大宅壮一が随分昔に喝破した総白痴化のテレビは論外としても、政治家と政治評論家、マスコミ、さらには本質的に変質したにも拘らず昔の名残の「いいとこどり」だけは執拗に手放さないアカデミズムとそれを食い物にする人々。いづれも丸山健二にかかったら木っ端みじんに粉砕されそうだ。あと1ダースか2ダースの丸山健二ありせば、この国の風通しはかなり良くなる、と思われたことだった。

2012年 01月 30日



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