2016年10月26日
akira's view 入山映ブログ コンサート2題
モーツァルト協会の「ドン・ジョヴァンニ」公演を上野の小ホールで聴いた。ピアノ伴奏(ぶっ通しで河原忠之。大熱演。)によるオペラ公演。キャストはジョン・ハオを除き全て日本人。ハオも芸大出身で日本に活動の拠点を置いているから、まあ、純国産の公演といっても良いだろう。最近の日本人歌手の力量の向上ぶりには眼を見張るものがあり、世界レベルで通用する人も決して少なくない。ただ、残念ながらテノールだけはなかなか一級品が現われない。体格的な問題ならば、バレエの男性舞踊手が堂々と国際的に通用しているのだから余り弁解の要素にはなりそうもない。まあ考えてみればあの三人以来、世界的に見ても不作が続いているのだから、何も日本に限ったことではないかもしれないのだが。このオペラはテノールの出番はさして大きなものではない。もっぱら女声3人とバリトン・バスの出番に依存しているから、その意味では均質なアンサンブルと充実感に満ちた舞台を構成するのには格好の出し物ではあった。
演出は永竹由幸氏。とかく演出過剰が鼻につくことの多い昨今のオペラ演出にあって、「出と入りだけは指示するが、後は出演者の自主性に委せた」というのは、簡素な舞台構成による公演とあいまって見事に成功したと言って良いだろう。いかにも人情家の演出らしく、最後にドンナ・エルヴィラとドン・ジョヴァンニをキスさせるあたりはご愛嬌か。氏の健康が思わしくないやに聞き及ぶ。本復を祈るや折。
もう一つはバーバラ・フリットーリのリサイタル。オペラシティのコンサートホール。ジュゼッペ・マルトゥッチという作曲家の「追憶の歌」は全7曲からなる30分を超える大作。始めて聴くので余り気の利いた感想は述べるべくもない。が、フリットーリの歌唱はやや平板に流れた嫌いはあるものの、一生懸命に創り上げている感じは客席にまで浸透していた。これにくらべればアリア5曲(ジャンニ・スキッキの「私のお父さん」・マノンの「柔らかなレース」・アドリアーナ・ルクブルールから「造物主の卑しい僕」他1曲。それにアンコールの「歌に生き恋に生き」)は手慣れた千両役者の貫禄充分で、期待した様な歌が、期待した様な声で、期待した様な声量で歌われるのを聴く醍醐味とはまさにこういうことをいうのだろう。アリアなんぞは全く朝飯前、という感じである。ちなみにこの公演はNBS主宰で、佐々木忠次さんが実に久しぶりに機関誌にコラムを書いていた。病を推しての執筆の内容がこれまた涙なくしては、という話なのだが、これについては稿を改めることにする。
2012年 02月 02日