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2016年10月31日

豊川海軍工廠戦没者慰霊祭(2) 杢野美保子


豊川海軍工廠戦没者慰霊祭 昭和60年10月8日
はじめに
昭和六十年十二月 杢野美保子(学徒引率教員/本校旧教員)
(2)
 一年に年の暮があり、新年があり、“時の流れ”といわれるように、ずんずん直進して縦に流れ、過ぎ去って行く年月の経過は、誠にもっともなことであるのに、昭和二十年八月七日の、生死を真半分に分けてしまったあの悲惨な体験を持った自分には、「今日があって時が流れる・・・・・」とか、「過去に云々・・・・・」とかいうこどかまるで無くなってしまっていました。八月七日に関する限り、八月七日を点として環状的に一年が巡り、また点を通過して一年が巡る・・・・・。同じところを巡っているだけで、時は流れて行かないど思っているらしい自分に気がついたのでした。
 まさに残された私たち(同期の者や私のような引率教員)が、あの修羅場を通り過ぎ、あの現実のかなしみや憤りや、無念などの様々な思いを時の瀬に乗せ、越えた時、知らず知らずのあいだに死者を悼むと同時に、その後の人生をどのように亡くなった人たちと共に歩いて行ったらいいのか、死者の念いを半ば負いもってどんな生き方をして行ったらいいのかと考えないわけにはいきませんでした。おそらくこれからもまたそんな風に歩いて行く毎日であるど思っていますが。こんな過し方をしているなかで“忘れられない”私たちのそれぞれの胸の内には、これまた何時の間にかそれぞれの記念の塔がうち建てられ、朝なタなの祈りが捧げられてきました。多くの死者によって購われたこの平和、その平和の先行きにこの頃不安を感じる時があります。そんな時やはり私たちの胸の内の記念の塔に、ただ祈りを捧げるだけでいいのだろうか、ただ悼むだけでいいのだろうか、そしてこの塔と一緒に燃えつき逝ってしまっていいのだろうか・・・・・と。
 こんな風にどこかからいつも囁かれ続け、自間自答しておりました時だけに、どのような形であっても、八月七日を憶えていただき、死者の念いを伝えることが出来たらいい・・・・・。そのきっかけを作っていただけるありがたいお申し出なのだから・・・と同期の者たちにも伝え、よろこんでお願いすることになりました。



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