2016年11月9日
豊川海軍工廠の思い出(2)桜丘高校 特別講師 井口正夫
〈学徒動員〉
十月十三日(金)晴
初の入廠日、朝、自転車に乗って工廠へ。ノーパンの自転車ながらベダルを踏む足も軽い。今日から晴れて国のために働くのだ。午前中は「我等の工廠」という映画を観、午後指紋を取って解散。
十月十六日(月)晴
姉さんが用事で自転車が要るというので今日は工廠まで歩いた。五時半に起き六時に家を出た。うす暗い静けさの中靴音だけが響く。工廠まで約八キロ、朝はよいが帰りはつらい。
当時、自転車は貴重品で一家に何台もなかった。八人家族の私の家には三台の自転車があったが、まともにチューブの入ったのは一台だけ、あとはノーパンというゴムだけのチューブレスタイヤとチューブの代りに山から取って来た藤づるを入れたものだった。パンクは無いかわりひどいクッションで、ときどきタイヤの破れ目から藤づるがはみ出すといったしろものだ。