2016年11月17日
晩春記(3) 尾崎一雄
「だからもはや戦争は起り得ない」と云ふ人もあるが、相互不信がある以上、安心は出来ない。
昔の蒙古人の侵略戦を野蕃で残虐だと云ふけれど、第二次世界大戦がそれ以下でないことは、ナチスのユダヤ人殺しや、米軍の原爆投下が示す通りだ。国家的、民族的エゴが野放し状態であることは昔も今も同じだから、武器が強力になつただけ今の方が悪い。
何億年先だか何十億年先だか忘れたが、地球は冷却するのでなく、灼熱して爆発し、宇宙塵となつて了ふのだ、と何かの本で読んだ記憶かある。それならそれでも仕方がないが、その時期を自分たちの手で早めるにも及ぶまいではないか。
国家や民族ばかりではない、個人の誰な彼もが、つんのめるやうな急ぎ足である。そんなに急いで、どうしようといふのか、どこへ行かうといふのか。