2016年11月28日
鶯系図(3) 板倉靹音
翌年、季節になると山公の家でなかなかいい鴬が鳴きだした。四里ばかり離れた町の旦那がもてあましたので世話をしているのだというふれこみであったが、Qさんに言わせると、旦那がいやがるのを強引に借りてきてしまったのだそうだ。いずれにしても、山公はこの鳥を付け親にして一羽を作りあげた。
さてその翌年。二年も鴬から離れて暮すなどQさんには嘗てないことであった。さいきん彼が付け子を手に入れたのも鴬への郷愁のなせる業であった。付けるべき親の当てなど全然なかったのである。するとそれを知ってぶらりと山公がやってきた。
「そろそろ鳴かせるが、付けにこないか。」
「いや、おれはもう止めた。ヤブ(野生のままの鴬)を鳴かせていればそれで結構たのしめる。」