2016年12月1日
紅葉(1) 結城哀草果
私達二人が山麓峡村の小滝(こたき)の宿屋に着いてから、夕食までの時間を利用して、村裏の小高い丘の上の公園に散歩に出掛けた。ここで私達といふ二人は私と私の仲よい中年の女のことだ。また公園などと呼んでも、神社が一棟あるばかりで、そこまで石(きざ)階(はし)が急勾配につづいてゐる。私は女の手を引張るやうにして、その石階を上ってゆくと、神社の前に年ごろの娘が転寝(うたたね)をしてゐて、二入の足音に目をさまし呆けた笑ひをした。よくこのやうな低能な娘が由村にをるが、多分大量に飲酒した男を父にもつ宿命な娘であらう。娘はのろく立ちあがると、雑木が紅葉しはじめた林のなかを俳徊して、枯枝を拾ひ集めるその間の抜けた動作が、古代にあった怪しい一齢でもあるやうで、二人は気圧さるるやうなものを感じ、黄昏るる公園をいそぎ村に降りて宿に帰った。その途中ある農家の庭に咲いてゐた白い丸く大きな花が、二人の目にとまり後日もその花がなつかしい話題になったが、その花を小滝の村人はテンマルバナと呼んでゐた。
知能低き柔和なる娘(こ)が動作のろく枯枝(かれえ)集むる丘(をか)にもあそぶ
テンマル花(ばな)とあかるく呼(よ)びて応(いら)へたり山家(やまが)の秋を白妙(しろたえ)に咲(さ)く