2016年12月2日
紅葉(2) 結城哀草果
宿屋はいかにも宿場の旅籠屋風で、階下は雑貨を商ひ、二階に客を泊める部屋が四つほど、襖に区切られてある。私達はその床間づきの部屋の、暗い電燈の下で夕食のとぎ、茸(きのこ)の料理を沢山賞味してから、二人は二人の布団を重ね合って寝た。さうでもしないと十月半ばの山村の夜は、しのぎ難いほどの寒さだったし、また夜がふけて二人の寝顔にふれる空気がつめたく、妙に頭が冴えてねむれない。そのうち女は私のそばでいつのまにか、やすらかで幸福さうな寝息をたてたので、私もそれに誘はれ、ついねむりに入った。
翌朝目がさめてあけた窓ちかくの山に秋雲が低く降りて、黄熱した稲田に朝日がまばゆく照ってゐる。また向うの高い山のあひから、湧きのぼった白い雲が、空にゐる雲といま交はるところである。女と私とはその雲を眺め仰ぎながら、二人もあの雲と雲のやうに結ばれるのだと、二人は同じことをおもってゐた。朝飯がをはると二人は、いよいよ目的にして来た白鷹山に登る仕度をした。ところが女が長裾のままでは、登山の身形(みなり)ではないといって、宿の主婦がモンペを貸してくれた。二人は素朴で親切な宿の人々に見送られ元気に山を目差して出掛けた。