2016年12月7日
若い水夫 丸山薫
船尾はもう泡立ちはじめた
キヤプスタンに捲き揚げられる太い艫索(ホーサー)
のたうつその先端(はし)にとっ組んで
たわめようとかかり
逆に躰ごとたわめられている少年
やっと十六、七にもなるかな?
おれがあの齢(とし)の頃何を考えていたのか!
だがあの子にしろ夢はまだ柔らかだろうに
ただ 必死のその頬を締めつけている
デッキ帽のアゴ紐や
潮や 渥青(チヤン)や けむりの匂いや
マストにひらめくカモメの飛翔が
いっぱし 彼を世界の男に見せているのだ
船は岩壁を離れる さよならもなく
風の吹く沖へ――