2016年12月21日
犬(2) 結城哀草果
また、梅津喜兵衛は好んで猟もやつたが、当時四十代の彼が猟に出かける姿は、いかにも颯爽として、余所目にも気持がよかつた。それに彼は男気に勝れた気さくな人だつたので、猟友も数多く地方には勿論、広く他県にまで及んでをつた。たまたま大正五年の初冬の季節に、梅津喜兵衛の人柄を聞きそれに惚れて来たといつて、猟を好む三十代の男が、わざわざ茨城県からやつて来た。梅津は満面に笑みをたたえて、その見ず知らずの猟友を迎へ、よろこんで部屋に通した。この遠来の猟友は小松原慶司といふ人で、十二番径の猟銃を携へ、セッター雑種の猟犬を連れて、青鑑札(二等)を持つてゐた。