2016年12月22日
犬(3) 結城哀草果
梅津喜兵衛は遠来の猟友を迎へた翌日から店の仕事を雇つてゐる理髪師と弟子達にまかせて、小松原慶司と二人は未明に起きて猟にでかけ、毎日日暮れてから帰宅した。そして小松原は一週間ほど梅津と猟の行動を共にしてから、いたく満足して瓢然と茨城県に帰つて行つた。その小松原が梅津の家を出るときに、惜気もなく携へてきた十二番径の猟銃と、連れてきた可愛いセッター種の猟犬とを、梅津に贈るといふのである。梅津は小松原と一週間にして、肝胆相照した仲なので、聯かも違慮することなく、銃と犬とを貰つた。その犬は雑種でさほどではないが犬の腹には横浜きつてのポインター優秀犬の種が孕んでゐるから、それをたのしみにしなさいとも、小松原は言置いて行つた。