2016年12月27日
犬(5) 結城哀草果
それからまた時が流れ、太郎が月満ちて産んだ子犬が五匹で、そのうちいちばん大きいのが雄で、またいちばん小さいのが雌で、どちらも優秀犬に育つものとおもはれた。そのうちでも雌方に希望をかけて、梅津が手放さずに育て、雄の方を野郎と名づけて、同じ門伝部落の高野忠助に譲つた。雄の子犬に野郎と名付けたのは愛称であ3」、東北地方の農家で、男の子を「野郎…野郎…」と呼んで可愛がるのと同じ気持からの呼名である。一方梅津が希望をかけて育ててゐた雌犬が街道に出て遊んでゐるところを、荷車に礫れて死んだ。その際の梅津の嘆きと落胆とは、ここに書き現はすことは不可能なほどである。