2017年1月6日
続鶯系図(4) 板倉靹音
この鳥を聞いて感心した一人に黒田主計中尉があった。加賀の殿様の家令の息子で、名古屋師団に勤務中であった。さっそく国へ電報を打つと、是非買えと返電があったので、山ノ内の所へいって二百円で売れと言った。山ノ内は承知しましたと言って中尉を帰したが、既に二、三日前に売ってしまった後であった。御園町へ飛んでいって、百円で買いもどすと言ったが小鳥屋は取りあわない。百五十円出すと言う。実はあの鳥が何としてもほしくてたまらず自分は家財道具から女房の着物まで質において買ったのだ、たとえ千両箱を積まれても、お返しするつもりはないと言う。そういう了見ならお前を訴えてやる、憲法のある世の中だぞ、と山ノ内はおどし文句を言って帰っていった。