2017年1月18日
心のかよいあい(2) 堀 要
人が生きてここに存在するかぎり、人は、色々のかたちで、色々の人々と色々の程度に心をかよわせながら存在しているのであって、しかも人は、現実の世界の中で、現実の世界に、心の中に写像した世界を投影した。その世界の中に、色々の人々との心のかよい路をもちながら存在しているのである。
私の親しいある音楽家が、ある音楽をきいて、感動で涙がでてしょうがなかったといった。同じ音楽を私も聞いたが、私には涙がでる様な感動がおこらなかった。私は、どんな赤ん坊の泣き声をきいても乳を与えるすべしかしらない母親を、自分にひきくらべて連想した。この音楽家は、こういっていた。「私は、すぐれた演奏家の音楽をきく時は、その演奏家をきく。あまりすぐれていない演奏家の時は、作曲者をきくことにしている。」
心のかよい路は、ひろく世界のどこにも通じていながら、同時に、どこにも通じていないのかもしれない。