2017年1月25日
失われた自然(1)-近ごろ感じてゐること- 亀井勝一郎
私は旅行する機会が多いので、様々の都市を見物するが、戦後、とくに戦災を蒙つたところほど町づくりが画一性を帯びてゐて、ちょつと淋しい気がする。商店街が一番似てゐて、特徴がみられなくなつた。ある程度やむをえないことだが、駅前広場の構成まで画一性を帯びるのはどうかと思ふ。
駅はその町の玄関だ。第一印象は何んと言つても駅前である。適当に広場を設け、花壇などつくつてあるのはいゝが、大へん不細工な裸像があつたり、妙な抽象彫刻がおいてあつたり、それがどの町にもひろがつて行くやうで、かうした点でなぜ各々の町が独自の工夫を凝らさないか、私はふしぎに思ふ。
たとへばその町が山国だつたら、杉の巨木を駅前に植ゑて、小さな森をかたちつくつてもいゝし、海辺ならちょつとした池を掘つて、魚を泳がせるのも一興だらう。地方色の失はれやすい時代だから、せめて駅の付近にでもそれを生かして、旅人を喜ばせてほしいと思ふが、そんな工夫のみえるところは殆んどない。