2017年1月26日
失われた自然(2)-近ごろ感じてゐること- 亀井勝一郎
私は古風かもしれないが、汽車の駅と言へば、何んとなく旅情の漂つてゐるところでありたいと思ふ。大都市の駅など大へんな混雑で、旅情どころではないが、農村の小さな駅などで、草花を植ゑてゐる風景などなかなかいゝものである。しかし大ていは、どこもこゝも忙しく混雑してゐるだけだ。駅といふ言葉のもつ一種の詩情を私たちはもう見失なつてしまつたのだらうか。
日本の工業能力のすばらしさを誰でも言ふが、その反面に、自然の破壊がある。近ごろのやうに有毒性の濃霧が多いと、人体の破壊を伴ふと言つてもよい。これもある程度やむを得ないことかもしれないが、あらゆる点で節度を失なひつゝあるのが現状だ。観光ブームもまた自然を破壊してかへりみない。