2017年2月13日
汽車二題(3) 山口誓子
1.丸山薫の詩
こないだ丸山薫氏の詩集を読んでゐて、汽車を詠つたいい詩にぶつかつた。詩の題は「鴉群」
汽車に乗るとき
私はよく最後尾の客車をえらぶ
そこの うしろ向きのシートに坐っていると
レールがいっさんに駈け去るのが見えるからだ
現在が 刻々 過去に絞られてゆく
やがて喪失のかなたに畳まれる
それを眺めるのが嬉しいからだ
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疾走する長距離電車
その最前方に立つことがある
すると 遠く曖昧な物が形になり始める
未来は間断なく現在に近付き
新しい未来が未知の重なりの中からほぐれてくる
それを経験するのがまた堪らないのだ
丸山氏は最後尾の車両から「現在が刻々過去に絞られてゆく」のを見た。又最先頭の車両から「未来は間断なく現在に追い付」くのを見た。
さう詠はれると確かにさうだ。詩人はいいことを云ふなあ、詩人の眼は上等だなあ、私はつくづくさう思つた。