2017年2月24日
酒二題(3) 藤原義江
どうも合点がゆかないまゝに、わたしのテーブルを見ると大きなケーキが置かれてあって、その上に小さなローソクが立てられ、火がゆらいでいるのだった。そのケーキはわたしの前にしかおかれていない。そしてもっとよく見ると、そのケーキの上には「お誕生日おめでとう」と書いてあった。
わたしはそこではじめて自分の誕生日に気がついたら、さあもう恥かしくて、全く穴があったら入りたい位だった。船長のところへ挨拶にいったり、テーブルの相客の一人一人に挨拶したりするわたしのあわて方を、皆がクスクスと笑った。十二月五日は確かにわたしの誕生日であった。
乗船名簿から船長がわたしの誕生日を知って、こんな気のきいた事をしてくれたのだ。
「世界一周の観光船であったわたしの船が、貴国の安芸の宮島沖に一泊したとき丁度その日がわたしの誕生日でしたので、宮島の町長さんがわたしのために祝ってくれました。今晩はそのお返しです。親切は回り持ちですよ」船長はこう云って、また杯を挙げるのだった。