2017年5月17日
現代文明と精神座談会(49) 出席者:尾崎一雄/荻野彰久/斎藤玉男/島崎敏樹/丸山薫
尾崎 芸術や学問なんか、人から取らないでしょう。いいものつくったって取らないですよ。学問上のあれでも、理論のあれだって、いいものが出れば。プラスするだけですから、人から取らないんです。だけど金や領土は取るから困るんです。だからそっちをなんとかして抑える。競争するならスポーツで競争するとか、学問や芸術で競争する。どうせ競争欲はあるんだからね。金や土地なんかで競争しないようにすれば、お互い生きてゆかれると思うんです。こんなこと言ったってしょうがないんですけれどもね。まったく。
島崎 科学というんですか、文明というものは、とにかくいまある生活ではがまんならなくて、もっと向上させると、もっと便利であり、もっと楽になる。こういうのは前向きなわけです。そのために科学技術が次から次に進んでゆくけれども、そういうことはいまあるものを壊しているわけです。だから科学と文明というものは、非常に破壊的な、残酷なものですね。事実いいお医者さんというのはいい学者じゃないですね。いい学者というのは、悪いお医者です。つまり人体を物にしちゃう。ですから大学病院に入ると、患者さんブウブウ言うんです。毎日、毎日診断ばかりされて……。つまりそうでなければ、科学は進歩しないわけです。つまり今あるものを壊して、よりよいもの、新しいものをつくるというのは、権力者と同じですね。権力者というのは、いまのままでいられないんです。ディクテーターなんかそうですけれどもいまあるものを壊して、より高次な、統一されたものをめざしているわけです。