2017年5月22日
海を渡る(1) 佐藤東洋麿
もう何年になるだろうか。ペルリの黒船で知られる久里浜の港から房総半島の金谷港まで、海を渡っているフエリーは「かなや丸」だったり「しらはま丸」だったり。二つの港のあいだは十二キロもないので、時速二十キロの船はわざとのようにゆっくりゆっくり進む。私の住まいは横浜、車で行けないこともないが、居眠りと読書の甘いひとときを過ごすため、電車やバスで久里浜に向かう。いつも昼頃の船に乗るから、今日もガラ空きだ。朝晚はゴルフ客でにぎわうらしい。南房総はゴルフ場のメッ力、金谷港を下りると十五くらいのゴルフ場案内がある。親しい仲間に誘われてそれをしていた頃がふと蘇る。彼らの一人は前立腺ガンで他界し、もう一人は現在胃ガンで苦しんでいる。私はゴルフの道具を全て棄てた。