2017年5月23日
海を渡る(2) 佐藤東洋麿
海は好きだ。満州生まれの私が七歳のとき引揚げ港の胡蘆島に着いて感動した初めて海、のちにボードレールの詩「人間と海」L-home et la merの冒頭、
自由人よ、きみはいつも海を深く愛するだろう!
海はきみの鏡。きみは自分の魂を視つめる・・・・・・
を読んだ時の共感。私は晩年の今も海に惹かれている。
そこへ通うのは、妻が鴨川市に家を借りて住んでいるからである。妻には昔から持病があり、甲状腺ホルモン関係なので病院とは一生縁が切れない。ところで鴨川にある亀田総合病院は、パンフによれば昭和二十三年には 医師数二十名の小さいものだったといぅが、今や常勤医四百名を超え九百床をこす病床数については、ほかに比類がない。待ち時間が少なく「予約時間から三十分を過ぎたら診療費から五百円減額します」とある。数だけで なく質もまた。
平成二十一年には日本で初めて国際評価機構の認証を得た。妻は全面的に亀田に信頼を置いて通院しているのである。ちなみに借家は二階建てで部屋がいくつもあり通気と日当たりは最高だ。隣人たちの善意に囲まれて、 夜更かし朝寝坊型の妻を知って午前中は誰も戸をたたかず、月に五、六日私が居るあいだも訪れる人はほとんどいない。そして今月も私は海を渡る。