2017年6月14日
人 魚 丸山 薫
あいつの唇が冷たいので
あいつの腹が冷たいので
いのちはみるみるおれからあいつへ
なだれこんでいった
全身しびれて流木のように
おれは渚に昏倒した
ああ 千億年にたった一刻の
逢う瀬、だったというのに!
あとはどうなったか!
やがて 太陽の炎と砂の熱とが
ふたたび余命を点火してくれたとき
おれは見た
海はあいもかわらず青く
太古のままに寄せ返しているのを
はるかに沖の波間を
ひらひら あいつが手をふってゆく――