2017年6月19日
高村光太郎先生の葉書(1) 大木 実
高村光太郎先生が亡くなって早や五年経つ。先生が亡くなった後、全集十八巻が筑摩書房から刊行された。その第十四巻、第十五巻の二冊は書簡集に充てられている。当時、全集編集部から先生の書簡があったらお借りしたいと連絡があった。私は高村先生を尊敬していたが、お会いしたことは一どしかなく、お手紙をいただくあいだでもなかったが、お葉書は何枚かいただいていた。それで探してみたが狭い家で荷物もたくさんあるわけでもないのに、そのときはとうとうわからず仕舞であった。戦時中の家族の者の疎開や、戦後のいくどかの転居のごたごたで失くしてしまったものと思っていたその先生のお葉書がこのほど偶然にもでてきたのである。数えると五枚あった。お葉書をいただいた順に並べて読み返した。すると一どだけお会いした先生の風貌、重たい口調のうちに温かみのこもった先生のお声が、実感をともなって甦り、先生への新たな敬慕のおもいとともに今更のように、年月の歩みの速かさを驚かずにはいられなかった。
先生から私宛にいただいたお葉書は、資料としてどうのこうのという質のものではないが、それでも短いなかにも先生のお人柄が偲ばれ、また全集にも漏れているという意味で筆写させていただく。