2017年6月22日
高村光太郎先生の葉書(3) 大木 実
二枚目のお葉書は下谷区真島町一真島荘宛でくださったものである。
「今日、砂子屋書房からあなたの詩集『屋根』が届きました。御恵贈をありがたく存じます。このしみじみと心にしみる詩をなつかしく思ひます。略儀ながらお礼まで。早々」
消印は一六、五、二三となっている。
当時、私は文筆生活を志望して父母と別居し、真島荘という木造二階建ての安アパートの一室を借りて、ひとり暮しを送っていた。そしてこの年の五月、第二詩集「屋根」を上梓した。この年の八月、先生は「智恵子抄」を上梓されている。「智恵子抄」は後に先生を代表する詩集のような恰好になって、先生の名をポピュラーにした。なお、この年の十二月、太平洋戦争が勃発したことは周知の通りである。