2017年7月5日
名古屋口の由来(1)―続々鴬系図― 板倉靹音
もう大分前のことだが、テレビ番組「それは私です」に、「……会で私の鴬は優勝しました。関東一の鴬作り、それは私です」というのがあった。関東一の鴬とはどんな鳴き声かと僕はすこぶる緊張して耳をそばだてたのだが、がっかりした。ただのヤブではないか。鴬飼いは自分の鴬を褒められたとき、「いやア、ヤブですよ」と謙遜する。ヤブとは薮鴬、つまり天然の鴬のことで、鴬飼いと言われるほどの者は誰も問題にしないのである。彼らがわざを競って楽しむのは人工の鳴き方で、これには伝統があって、地方地方で非常に異っている。試みに稲葉源之助氏の「日本鳥の飼ひ方」から二、三あげてみると次のとおりである。
東京地方
「下(さ)げ」(乙(おつ))ホ。ホ。ホ。ホケキコオー。
「中(なか)」ホ。ホ。ホケキコ。
「上(あげ)」(甲(かん))ピー。ホケキコ。
関西地方
「高音(こうね)」ホーキイー。チカコー。
「下げ」ホ。ホ。ホケキヨ。
「中」とは「中音(ちゅうね)」、「上げ」とは「高音」と解していいであろう。なかには
四国の土佐地方
「高音」ヒー。ツキ。ボシ。
「下げ」ホ。ホ。ケン。
阿波
「下げ」ホーホケコン。
「高音」ヒー。カキクケコ。
などといった珍妙なのもあるらしい。