2017年7月13日
志摩の玉虫 安西冬衛
正月三ケ日明けの
賢島、志摩観光ホテル
日ざしのどかな
オフ・シーズンのラウンジで
ぼくは世事をよそに
ひとり無用の光陰を愉しんでいた
そんなぼくの静謐
ローヤル・ダルトンの
白い陶(すえ)さながらの
めでたい完さを
しかし、その時
俄にさまたげたのは
若い電子工学(エレクトロニクス)の技師と
蜜月の旅にきた
もと、新劇の女優だったというひとの
玉虫文様きらびやかな
ネッカチーフを
磯笛ひびく海のよそ風になびかせた
華やいだ現れだった………
思えば、あれから一年
どんな三百六十五日が
彼女の上に
流れきたり、また流れ去ったことであろう
きょう、ぼくは、
あの日あの時
つややかな西洋八つ手の葉かげで
演じられた彼らの
ひかりまばゆい
ハネムーンの一幕を
レーゼ・ドラマを読むように
読む。