2017年7月26日
山旅のたのしさ(1) 熊沢復六
本誌第七号の座談会記事には、山の話があって、山ずきな私には、とてもおもしろかった。夏山は、混雑するのと、登山者の傍若無人ぶりに腹がたつのとで、ここ数年来、もっぱら敬遠しているが、新緑の訪れ、紅葉の便りをきくと、もうじっとしていられないので、金と時間の無理をしてでも、山へ飛んでいくのである。山へはいることは、言わば病気のようなもので、この誘惑にはどうしても勝つことができない。
しかし、年とともに気力と体力の衰えは、どうしようもなく、淋しい気がしないではいられない。六十の声をきいてから、この衰えは、眼に見えて大きくなった。それは、まず足から近づいてくる。そしてだんだん気力へとうつっていく。私は、それを去年の秋の山旅で、いやというほど感じさせられた。だが、そのかわり、若いころのように、ひたすら高いところをめざす山のぼりのよろこびのほかに、別なたのしみがあることに気がつくようになった。だから、気力と体力の衰えに反比例して、山旅への情熱は、いっそうつよくなるのだから始末がわるい。