2017年7月27日
山旅のたのしさ(2) 熊沢復六
去年の秋は、末の娘が結婚するので、その思い出にと、二人で妙高から笹ケ峯、さらに戸隠とまわってきた。実は、四、五年前に見た火打の紅葉の美しさが、今でも眼底にしみついているからであった。しかし、去年は、きびしい寒さが早くきたせいか、どこの紅葉も期待ほどではなかった。
戸隠から帰ると、すぐその足で大杉谷にはいった。一昨年の秋、ここで見た紅葉の美しさが忘れられず、もしやここなら、という期待もあったからだ。しかし、ここも一昨年ほどのあざやかさはなかった。実際、一昨年、大杉谷周辺の山々を、濃紅、紅、赤、朱、黄、樺色に彩った色彩の交響楽は、まことこの世のものとも思われない美しさだった。色彩が豊かで、澄みきっている点で、こんなにみごとな紅葉は、どこでも見たことがない。黒部や、十和田湖の秋は知らないが、日光、白根、火打、双六谷など、名だたる紅葉の名所も、大杉谷のそれにくらべたら、ものの数ではない。それが、昨秋は、夢よ、もういちどというわけにはいかなかった。紅葉というものは、よほど気候に敏感であるらしい。そのかわり、いくつかの思わぬ収穫があった。