2017年8月1日
山旅のたのしさ(5) 熊沢復六
このときの山旅には、もうひとつ景品がついている。さきにのべた、沖見峠から大台ケ原へ通じる道から、百メーターばかり下、大杉谷の谷底から三、四百メーターほど上の断崖を、今、屋鷲から大台の辻へ、林道の開発工事がすすめられている。私は、尾鷲営林署の好意で、千尋事務所に泊めてもらったが、たまたま工事主任のKさんから、「爆破作業のとき、岩盤と土層との問から、こんなものが出てきました」と言って、山刀らしいものを見せられた。
長さは六四センチ、刀身のいちばん巾の広い部分が、蛤形に両面にふくらみをもち、握りの部分に近づくにつれて細くなっている。そして握りの部分に小さい穴が二つあり、その端は尖っていないで、かえって広くなり、六ミリくらいの厚みがある。勿論、鉄器ではあるが、すでにかなり腐蝕していた。