2017年8月28日
ナッパ服の男 ギュンター・アイヒ/大山定一訳
ナッパ服の男がひとり
肩にクワをかついで帰ってくる。
ぼくの家の生け垣のそとの道を。
かれは日ぐれ、カナンの田舎道から帰ってきた。
かれはまたビルマの水田の畦から帰ってきた。
かれはメクレソブルクの馬鈴薯畑からも
かれはブルグントの葡萄山からも
かれはカリフォルニアの大農場からも帰ってくる。
ちいさなガラス窓のなかに灯がともるとき、
ぼくはぼくにあたえられなかった幸福を羨やんだ。
つつましい毎夜の一家団欒――
かまどの下で薪がけむり、
洗濯したこどもたちの下着が部屋中にほしてある。
ナッパ服の男がひとり家路をたどる。
肩にかついだクワの影が
夕日のなかであたかも連発銃のようにみえる。