2017年9月6日
辻野先生のことなど(1) 大木実
私は東京の下町で生まれ十一才までそこで育った。本所区の柳島梅森町というところだが、現在はそういう町名はなくなって太平(たいへい)町に変っている。私がいたころは太平町というのは隣接したとなり町で別にあったが、小さな柳島梅森町の方が整理されて編入されてしまったらしい。現在は本所区もなくなって墨田区に変っている。
先日、何ということなく十何年かぶりでそのあたりを歩いてきた。大正の震災と昭和の戦災と、二どの大きな災害を受けたので、それでなくとも年月とともに自然と変化していく町の相貌が、昔のおもかげを跡かたもなくなくしているのは当然だが、戦災を受けた地域がどこでもそうであるように、そこにただ人家が集まり、そこに人間が住んでいるというだけの、どこにでもある町なみが続いているだけであった。