2017年9月21日
或る日に 村野四郎
ここはどこかと
訊くひとも居ない
祭のあくる日のように
へんにさみしい町並があった
ぼくはいつ旅に出たのかしら
とある格子戸の外から覗くと
魚のやける匂がながれてきたり
桔梗の花に
打ち水のしてある庭がみえ
そうかとおもうと どこかで
――うのはなの
におうかきねに……と
季節に戯れている人間の
やさしいこえがきこえたりした
もう二度と帰れない世界を
もういちど覗いてみて
ぼくは 本当の泪をながしていた
格子に「忌中」という紙が貼ってあった