2017年11月1日
思い出ひとつ(2) 竹中 郁
三好君は二人の女性と一しょにおそい朝食をとっていた。或は朝昼兼帯かもしれなかった。早速わたくしにも昼だから食べろ、といって、いなやもなしに仲居にいいつけた。
二人の女性は一目みて色町の人とわかるいでたち、実の姉妹のようにもみえるし、いわゆる色町でいう姉芸者妹芸者のようにも受けとれた。その衣裳や口ぶりから、すぐ京の芸者ではない、こりゃ三国から連れてきたと知れた。
こちらもたずねるわけでなし、三好君も紹介らしいこともしない。それにしても、中村楼といい、二人の芸者といい、戦後の窮乏の中で不安な日々を送っていたわたくしの目には、どう受取っていいのか戸まどった。
いくら三好君の本のでる度数が多いといったとて、その印税が入るといったとて、不思議に思えた。尤も三好君は焼け出されたわけではないから、その持物を金に換えることができるし、などと下司な推量をして見つめていた。