2017年11月2日
思い出ひとつ(3) 竹中 郁
旅行をするにしても、汽車の切符がらくに取れる時代ではない。二人の着飾った女性をまさか混み合う三等にのせて来たわけではあるまい。
わたくしの下司の推量はそんなことにばかりかかずらわって、折角ひさしぶりなのに一向に実のある話に入っていけない。二人の女性への遠慮があったにせよ、その席では三富朽葉の全集の編集者の亡くなった増田篤夫氏自身の遺稿について、その出版の方途や勘案を二人で話しあったくらいであった。
或はわたくしが酒をたしなまないので、つい話がはずまなかったのかもしれない。そういえば、君はのまんからだめだ、とそれまでにも何度も三好君からきいたものである。