2017年11月6日
思い出ひとつ(4) 竹中 郁
そのあと、四人で下鴨へ行った。なんでも、三好君は昔そこらをよく歩いたから見たいのだといった。森の中をあるいていて、へえ、こんなに木は少なかったかね、こんなに低い木ばかりだったかね。
三高に在学中に見たのと、今みるのとのその間には、昭和九年かの大風災がある。それにやられたからだろう、とわたくしがいうと、半分納得したような半分いぶかるような返事をした。
二人の女性へ向っては、始終あいそがいいわけではなかった。といってダンナ振って応揚なわけでもなかった。
とにかく、わたくしにはあの時の三好君はとんとわからずじまいに終った。