2018年3月12日
ポルト観光(101)第6章 帰国へ §2 ヘルシンキ空港⇒セントレア⇒浜松 影山喜一
留守番中のナノ・リュック
荷物を高齢のスタッフがバスの脇腹に次々慣れた手つきで積み込む。ステップで運転手がチケットを要領よく受け取る。中程の左側の席に座る。運転席の後ろに置いてあった新聞を広げるが全然面白くない。漢字とひらがなが無意味に踊っている。帰国した喜びなど皆無である。また戻ってしまったという悔恨すら覚える。読んでも理解できはしないのに、アルファベットがやけに懐かしい。10数時間前にポルトやマドリッドをふらついていたのが夢のような気がする。決して楽しい出来事ばかりではなかった。苦しかったり嫌な思いも沢山経験した。しかし、それらも含めて異国における3週間が、確実に自分の一部となってしまったのを実感する。窓を通して外の景色がどんどん飛び去る。にも拘らず私の脳裏に次々蘇るのは、カフェや教会で見掛けた人びとの表情や仕草である。
夢見ごごちにバスの揺れを受け止めていると、微かなブレーキ音とともに静寂が訪れた。窓外に目をやった途端、はっと我に返った。到頭、わが家の建つ浜松に着いたのである。否応なしに厳しい現実が私に襲い掛かる。3週間に及ぶ今回の遠征で最大の難題であった愛犬のナノとリュックが、首を長くして帰りを待っているはずである。ペットホテルや獣医院に預けられるのを嫌う彼らの処遇で困り果てていた。散々厄介な交渉を粘り抜いた結果やっと、義妹の桐原まゆみに頼んで承知してもらう。埼玉の家を空けられない際は、犬たちをそちらに連れて行くという好条件である。そして、私たちの戻る予定の今日の昼前には、家で待つ夫の元に帰ると電話があった。長期にわたる面倒の詫びと礼も述べられず、遠路遥々運んできた土産物を渡す機会もない。