2018年4月20日
ドナルド・キーン著 「百代の過客 日記に見る日本人」 桐村俊一郎
1. 進みゆく緑内障に新聞は妻に渡して幾年を経し
2. テレビありウエブある世に寅彦の新聞無用論肯ひてをり
3. 両眼の白内障の手術より手許はさらに見えずなりけり
4. 乾き眼に劇しき薬を差し継げば角膜に傷生れて痛む
5. 春長けてわが読みたるは贈られし句集と歌集二三なりけり
6. 本読まぬ日を重ねれば空しくて生きる甲斐とてありとおぼえず
7. 梅雨空に書架より抜きし一冊を心許なく開いてはみる
8. 腰痛に寝転び開くべージには部屋に射し入る光を受けて
9. 一字づつヘッドル-ぺで追ひ行きてハンドル-ペも重ねる字あり
10. 昼かけて根をつめても遅々として二日かかりし序文宜しき
11. 慈覚より聖謨まで千年の日記に探る日本の心
12. 誠実に歴史を生きた人々の個性に惹かれはかどり始む
13. 英文を佳き日本語に訳されし金関寿夫半年の労
14. 貫之の歌論数ある「土佐日記」されば読みたき老学徒なり
15. 親王や天皇の寵その重さ和泉式部と二条に量る
16. 後鳥羽院定家を語り為家の阿仏尼語る日記もがもな
17. 捉はれぬ公条、武女、長嘯子の日記の旅の人懐しき
18. 多賀城の石碑に芭蕉感得す文の生命久遠の記念
19. キーン氏の「終わりに」「日記作者こそ百代の過客永遠の旅人」
20. 病む眼もてかくも豊かな書を読みし喜びに見る立待の月
2016/8