2018年5月25日
「苦海浄土」 箕面会七月度詠草 二〇一七年七月一四日 桐村欅軒
わが友後藤延一君は朗読の天才なり。肺がんの鎮痛剤を用いつつ、石牟礼道子著「苦海浄土」の朗読会を企画す。高校の同期会に同じ放送部のT女の見えしを言へば、即ち再会せり。T女の話に、亡き夫君は天草の人にて、お子達が夏休みごとに天草弁に染まりて帰京せしとぞ。君は忽ち件の一章「ゆき女きき書」をT女と共演せんと思ひ立つ。ゆきは水俣病患者に多き天草の人なりし。T女は躊躇ひ、次の二首を君に送る。
我が心ゆきの生き様近づけず逃げることのみ思い煩う T
拙くもゆきの鎮魂願いつつ苦海浄土を繰り返し読む T
返歌あるべしと叩き台を君に示せば、即ちわが代作と明かしてT女に送る。
1. 鎮魂の心を籠めて演ずればゆきも作者も喜ぶならん
2. 自らの言葉になるを究極の目標として読み励みませ
かくて講談社文庫「苦海浄土」を急ぎ読み終えたり。(第一部終り)となむ。
3. 水俣の海辺の奇病手と足の痙性麻痺に言語障碍
4. 多発せし昭和三十一年の海辺の猫は皆狂い死す
5. 湾内の魚貝の毒と知れながら殿様企業の排水止まず
6. 熊大がメチル水銀中毒と確信せしは三年の後
7. 患家らの会社に戴く涙金以後十年を忌み嫌はれて
8. 後入れのゆきを茂平は新造の舟に迎へて二年の幸 (ゆき女きき書)
9.「働こうごたるなあうち寂しかよこげん手足で一人離れて」
10.「海はよか生れ替ってじいちゃんと二丁櫓で海にまた行こうこたる」
11.「この杢ばうつちょいて往けんとでござす」老爺の憂ひわが家にもあり (天の魚)
12.「ありゃなんの涙じゃうかなぁとうちゃん草木のこたるゆりが涙は」 (地の魚)
13. 語り部の「苦海浄土」に奏でるは滅びる民の白鳥の歌
13. 捨てられし逸話惜しめば贈らるる全三部作われらが聖書