2018年7月27日
依存する(4) 佐藤東洋麿(横浜市)
ところでムンクは「ノルウェーじゅうに『禁煙』と貼られても、煙草を止める気はない。彼のなにより好きなのは頭脳を使うことで、煙草なしではものを考えられない。身体などどうでもいい。車のラジオからヘンデルが聞こえるダッシュボードにも禁煙と。窓を開け次々と煙草に火をつける。
いくら窓を開けても、ダッシュボードやそのあたりは灰にまみれるだろう。フランスの詩人ボードレールの
病いと死は灰を作りだす
La maladie et la mort font des cendres (詩集『悪の華』、「肖像」所収)
ではないが、ムンクも我々から見れば命がけである。
サミュエル・ビョルクのこの本には副題がある。アイム・トラベリング・アローン…私はひとりで旅しています。寂しいような、自由のような。本の表紙はすべて黒ずんでいて、少女の姿だけが淡い黄色で浮かびあがるが、アイム・トラベリング・アローンの文字のみ赤く鮮やかに見る者を惹きつける。
ノルウェーの暗い森に幽鬼ただよう惨劇が始まっていく。みなが想像する性的虐待の痕はない。それならなぜ、だれが、どのような動機で修羅の情景を作っていくのだろう。それが五百頁にわたって明るみに出されていく。
「私はひとりで旅しています」