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2018年8月2日

かがし(案山子)-3 保田与重郎

 かういふ解釈上の手続は、外国文学の理解や解釈の場合にも必要なことと思ふ。もつとも「文学」の限度領界の問題であるけれど、私の考へでいふのだ。外国人の文芸批評家がしてくれたことを、さらにかういふ手順で知ることがまた必要で、かう考へると外国文芸の直接の理解は、人間の努力の限度から見て不可能と私は思つた。まづ自国近隣のことを、かういふ手順で考へる方法をさとり、それを外国文学をよむ時にも及ぼすといふ程度の謙虚の方法以外、私は外国文学の理解法はないと思ふ。その証拠に、外国文学直接の影響下に生れたといふ近代文学は残つてゐない。さういふ形の作品といふふれ込みで世に出したものは、すでにその作者の生きてゐる間に消滅して了つてゐる。明治文学で「古典」として残つたものの原因は、外国文学の影響が、その作品に生命を賦与したものでなく、その作者が江戸文芸の気質を相続した程度にある。奈良平安文芸の気質をなべてにうけた文人としては佐藤春夫先生以外に、多分ないと思ふ。明治の「古典的作家」は悉く江戸文芸によつてその生命を、けふにのこしてゐる。藤村先生や新詩の作家らは、いつれもちがつた国民文学者であるやうに思はれる。



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