2018年8月6日
かがし(案山子)-5 保田与重郎
大和桜井の私の家へ早川さんがこられて語りあつた時、一体「かがし」とは何だらうと、いふことから、早川さんがいろいろと教へてくれた。私の根掘り葉掘り問ひただしたことだつた。何でも知つてゐると思つてゐる人が、全然自分の知らないことばかりが書いてあると思へるやうな文章である。さらにこれをよむと「かがし」といふものの本体がわかるだけでなく、日本人の考へ方や所謂日本精神の本有のものがわかる。日本に「憲法」といふものがもし必要だとするなら、その根本となる、日本人のものの考へ方の根源をかいたものといふこともわかるだらう。ここに云ふ日本精神の本有のものといふことにしても、この文章をよめば殆どの人は、今まで何も知らなかつたと思ふか、今までは自他ともに間違つてゐたと思ふだらう。丁度幽霊を相手にし、その幽霊と戦つて、かつことが出来ないといふ状態や、知らずして敗けてゐる状態を心底からさとるにちがひない。この状態といふのが、けふの「文化人」や「進歩主義者」をつくつてゐる、彼らの心理状態なのである。さらに云ふと、これが「戦争」の原因だが、わづらはしいから説明しない。