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2018年8月21日

メエル・エスプリ(上) 丸山薫

 Kさんは某建設会社の社員であり、ネエヴィ・ブルーの艇長でもある。ネエヴィ・ブルーとは知多鬼崎のヨット・ハーバーに繋がれている航洋ヨットで、江田島の旧兵学校の同期生達が見果てぬ海への夢を托すために、めいめいの私財を投じ合って建造したものだそうである。
 Kさんと僕との文通の始まりは、僕の旧作「薄暮当直(ドッグ・ワッチ)」という詩を、ヨットの雑誌「舵」に載せる自分の文章の申に引用したいからと、その承諾を求めてきて以来の事である。その文章というのは、商船や軍艦の中で打ち鳴らす時鐘についてのエッセイであって、その後も毎号のように同誌に連載された「旗談義」とともに、Kさんの海事への知識と郷愁をかたむけたものとして、僕には興味つきぬ内容であった。
 そのKさんから先週の土曜の晩に電話がかかってきて、お願いの筋あって明日の午前にでも拙宅を訪ねたいという。実は近々さる造船所からレースの賞として額縁を貰うことになったが、その縁が古い船材―チーク材だと思うが―で出来ているので、それに帆布を張りたい。ついてはその帆布に「薄暮当直(ドッグ・ワッチ)」の一節を書いてほしいというのだった。いかにもヨット・マンらしい好みから出た希望である。



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