2018年9月14日
ぷろむなあど(4)岩佐東一郎
しかし、みんなが我を忘れて楽しんでいるのだし、ぼくにしたってなにも民謡コンクールの審査をしているわけではないから、甚だ気楽にきいていた。一しょになって拍手をしてみたり、笑ってみたり、時として口の中で共に唄ってみたり、いつのまにか会場の気分に同化してしまっていたのだった。
「秋田おばこ」をきくと、かっての秋田旅行を思い出すし、「下津井ぶし」をきけば、瀬戸内海の廃港風景が目に浮んでくるし、「おてもやん」や「刈干切唄」などには、明るいのんびりとした九州地方の人情風俗を……というように、ぼくの心象を去来するものが多々あった。
といって、いつまでもきいてはいられないから、休憩の幕が下りたのを汐時に、そっと席から立ち上って、受付に「どうもたっぷり楽しませていただいて、ありがとう」と礼をのべて、外へ出た。