2018年9月21日
朔太郎の庭見物(3) 桑原武夫
庭見物は生まれて初めてといわれるので、私は失礼をかえりみず萩原さんに自動車に乗るまえに注意した。「よろこんでお見せするといっています。しかし、形式はお寺の秘園を拝観するということになるので、お仏壇の前ではちょっとおじぎをして下さい。」
大仙院の住職は金襴の袈裟をかけ盛装でうやうやしく出迎えた。玄関から本堂にむかう。石庭はその途中の右手、つまり御堂の東側にあるのだが、萩原さんはすっと須弥壇の前まですすみ、端座して頭をすりつけるように拝礼した。お伴の私たちの方があわてた。
私たちはもどって庭の前に立った。住職は、日本一の詩人の礼儀正しさに感銘した模様で、私たちのうしろに侍立するのみで、遠慮ぶかくなに一つ言葉をさしはさもうとしない。そこで私は、この庭は枯山水といって、水をつかわないで爆布と賂流をつくっていること、正面の大きな石が滝をあらわしていることなどを説明した。萩原さんはしばし庭を見るかのようだったが、住職の方に向っていった。そこには何かいわねば悪いからという感じもあった。