2018年9月28日
朔太郎の庭見物(7) 桑原武夫
もう一度は東京で中原中也賞の選考会のときお目にかかった。私はたまたま東上中だったが、「四季」同人ということで引っぱり出されたのだった。会場は、山王ホテルの近く、表通りからせまい露地をちょっと入ったところ。萩原さんは出席される約束だったのに見えない。仕事をおえて外へ出ると、表通りの歩道を例の鳥のような格好で、せわしげに歩いている。そして出会うなり幹事役を叱った。一時間前から、この辺を行ったり来たりして捜していたのだという。萩原さんは絶対にひとに道をきかない人である。次に、今は何時かね、とたしかめて、それじゃすぐ酒をのみに行こう、といわれた。その頃は夕方五時かっきりに酒をのむことが許されており、時間がおそくなるとその日の分がなくなる心配があったのだ。