2018年10月12日
泥人形(1) 串田孫一
お前の留守に篤子さんが来たよ。娘さんを連れて。三つになるんだって。母がそう言った。私は自分の部屋へ入りながら、へえ、そう、珍しいねと言った。
週に一度の学校の講師になり、僅かの給料で古本をせっせと買っていたころで、部屋の中はそろそろ整理がつきかねて、自分の机のところまで行くのにも、積みあげた本をまたぐようにしなければならなかった。そして、書棚には本の前に、どこかで拾った木の実だの、ポスターカラーの小堤だの、立てかける額だの、ガラス戸の下の車だの、がらくたが置いてあった。
それはどういう意味も目的もないようなものだが、そんなものがあって自分の部屋らしくなり、本を読むのに疲れると、そのがらくたの類を眺めて、しいいんとした二三分をつくり出すのが習いとなっていた。